銀座の画廊<秋華洞>社長ブログ

美術を通じて日本を元気にしたい! 銀座の美術商・田中千秋から発信—-美術・芸術全般から世の中のあれこれまで。「秋華洞・丁稚ログ」改題。

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11億円の歌麿で考えた。ニュースにならなきゃ信じられない──僕らの現実確認癖

   

<喜多川歌麿の「深川の雪」、11億円で落札 国内に唯一残る3部作>

朝日新聞に昨日のオークションが記事として掲載された。

https://news.yahoo.co.jp/articles/8970e00094c3293bf9f0e3b002f7809ddc50bdee

歌麿の大型肉筆作品「深川の雪」の落札額は手数料込みで11億円とされている。

さて、突然だが、ニュースにならないと現実と思えないという癖について考える。

僕らは野球を見に行くと、翌朝の新聞とか当日のテレビなどで結果をもう一度見て、「ああ、やっぱりアレは本当にそうだったんだ」と確認する癖がある。

自分が西荻のガールズバーでお姉ちゃんと1時間話し込んだ、なんてことは記事にならないのは承知しているが、公式のデキゴトはニュースになって、「ああ、やっぱりアレは夢じゃない、たしかにみんな見てたんだ」となることがある。

よくワクチン反対とかのデモなんかでも、翌朝のニュースで無視されていると「何十万人も集まったのに!」と皆文句を言う。どこかでニュースになるとオフィシャルなもんで、載らないとマイナーな出来事だとなんとなく認知の相場感ができてしまう。

だが本当は見てきたことの方が本当で、ニュースはその不確かな射影に過ぎない。でもどうしてもなんだか逆転してしまうのは、世間の共通認識がマスコミでできている、と言うことで。これは全人類にある、ある種の倒錯でもある。

ところでオークションの値段も僕はオークション会社のリアルタイムで更新されるサイトで見ただけで、会場で見たわけではない。その意味では「自分の目で見た」と言うのとは違う。

でもどうだろう、どうも人間は群れる動物なので、皆が確認可能なものが真実である、どう思いがちないきものである。例えばクマとかウサギとかタコとかは新聞で世間や自分の人生を確認したりしない。

でも人間はどうもマスコミの方を自分の経験より優先しがちである。

この世のマネーとメディアを支配している人々はそのあたりの機微をわかっていて、自分は自分の見たものを信じて、世間にはニュースを信じさせて動かす。

北斎の相場にもそれは表れていて、今どんなもんでも高いのだが、それはニュースで最高落札額が更新されると、別にニュースにするほどでもない北斎でも値段が上がる。まあ値段なんてのは気分みたいなもんだから、真実がどうとか関係なく、吉本隆明で言うところの共同幻想で上がってしまう。商人の僕が言うのも変だが、ニンジンがいくら健康にいいとテレビで言われても急に上がらない。役に立つものはたいして上がらないが、北斎というたいして役に立たないものは高くなる。価格に合理性もへったくれもないからである。

吉本隆明

それはそれでいいのだが、ガールズバーの女の子の誰それが可愛いと言う現実と、ワクチンで3日寝込んだとか隣の奥さんが亡くなったという報道されない事実の方が、本当はリアルで真実なのだが、報道されないと大したことではないと思ってしまうのが人間だ。

でももう少し私たちは賢くならないと、本当に命を奪われてしまう。目の前で起きたことを信じて、次の出来事も考える癖を私たちはつけた方がいいと考える。

歌麿も高くなったから素晴らしいとか、そればかりでもいけない。何事も冷静に考えないと、ね。

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