銀座の画廊<秋華洞>社長ブログ

美術を通じて日本を元気にしたい! 銀座の美術商・田中千秋から発信—-美術・芸術全般から世の中のあれこれまで。「秋華洞・丁稚ログ」改題。

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KOGEI ART FAIR 2025

   

今年も昨年に続いて、金沢でのKOGEI Art Fair Kanazawaに参加した。

金沢市が全面的にバックアップするこのフェアは、伝統工芸の都である金沢・北陸の面目を保ち、現代の立体表現が静かに息づく場所でもある。地域に根ざしたエネルギーが凝縮された、特別な場だと思う。

会場は金沢駅前のハイアットセントリック金沢。ホテルそのものが洗練された美術的空間であり、各客室も意匠を凝らした設えになっているため、作品が置かれるだけで自然と雰囲気が高まる。

HYATT CENTRIC Kanazawa

出展ギャラリーは現代美術、近代美術、工芸専門と幅広く、全国各地から集まっており、ここでしか出会えない店も少なくない。

私たちは少し広めの部屋をいただき、7人のアーティストを紹介した。 前回に続き、台湾の日本画家・陳珮怡(チン・ペイイ)と、シンガポール出身のガラス作家・マスタニ・メイ、アメリカ在住で同じくガラス作家の広垣彩子を引き続き紹介したのに加え、新たに絵画の澤田光琉、白磁の波多腰彩花と生嶋花、そして陶と繊維を自在につなげる北林加奈子の4名を迎えた。

今回のラインナップを考えたのは昨年から弊社に戻った長女だったが、比較的白や透明感のある作品で揃えてあり、窓からの自然光が美しい部屋によく似合った。「白で統一したの?」と聞かれると「意識したわけじゃないけど、気づいたらこうなっていた」という。

ただ、娘の「好み」と、そこに集まってくれた作家たちの「性向」はどこか時代の共通点を感じさせる。

近頃の現代美術が持っているある種のデーモニッシュなまがまがしさから、自然そのものから人が受け取る清らかさに、時代は変化しようとしているのではないか。工芸も、自己主張の時代から、生きることそのものとシンクロした純粋な存在感へと回帰する傾向があるのではないか、と思わせるものがあった。

今回集まった主要な作家は皆若い女性であった。連夜食事を共にしたのだが、30前後の作家たちはいずれも初々しく、まだ人生を始めたばかりという印象を受ける。しかし一人ひとりが、自分の道を自分で切り開こうと必死に生きている。深刻なわけではないが、何か素朴に「本当の生き方」を求めようと、陶芸や工芸という、一見困難なことに挑戦しようとしているようにも思える。郷里を離れ、縁のあった土地に根を下ろし、制作を続ける姿には、独立した一人の人間としての尊さが宿っている。作品はその「射影」ともいえる。

特に波多腰彩花の白磁は出色だった。抽象的な造形の中に日常の感触がそっと刻み込まれ、女性版・八木一夫とも言える伸びやかさと、人生への静かな賛歌のようなものが漂う。男性作家である八木の「黒陶」とは対照的な、少しユーモラスな優しさがあった。

波多腰(上部)と北林作品(下部)
トークショウに出演する波多腰

会期中もっとも人気があったのは生嶋花の器だった。生で艶っぽい不定形の鉢シリーズと、和洋折衷の造詣が結晶した煎茶カップと急須は、ほのかに虹色を帯びた釉薬が隠れた魅力となり、多くの人を惹きつけた。飾っておくだけでも美しく、たまにそれで茶を淹れたくなる。大量生産の高級カップとは一線を画す、繊細で愛おしい存在感は、六本木や丸の内での展示歴もあって、注目を集めていた

生嶋花作品

シンガポール出身のマスタニはガラスで作られたパーツが縦横に組み合わされてさまざまな形をとる。それは時に固定された円環や宝石の結晶のようにもなるし、あるいはジャラジャラと美しく高い音を立てながら触れられる鎖のような円、線、平面を描く。それは一種の繊維のようでもあるし、鉱物のようでもある。中国語訛りでもなく英語訛りでもない、独特の日本語を話すマスタニはその誠実な人柄もあって、多くのファンをもつ。なんとなくアクセサリーのようなイメージを人はその作品で連想しがちだが、彼女はそうした見方を否定する。スカルプチャー、つまり彫刻への敬意が彼女の創作の原動力になっており、いわゆる「宝石」的意匠とはコンセプトも動機も違う。彼女にしかできないガラス特有の構造物を作ろうとしているのだ。

マスタニ・メイ

昨年に続き人気があったのは広垣彩子だった。丸い柔らかそうな芯に緻密にガラスの棒がつきささる作品は、あるお客様が「まりも」と呼んでいたが、海の生物のような趣がある。ガラスで生命の原型をつくっているような趣向だ。

広垣彩子

北林加奈子の感性も光った。。焼いた白磁と紐や房などの繊維で構成される作品は、他に類を見ないユニークさがある。日常の不可思議さを顕在化させる作品たちは、今回の展示の白眉だった。特に波多腰作品と並べたとき、この世代の軽やかでしなやかな感性が際立った。

北林加奈子

今回、点数は少なかったが、澤田光琉と陳珮怡の柔らかな色の絵画は他と調和していた。

会期中、作家たちとは夜遅くまで話をした。「何のために作品を作るのか」「良い作品とは何か」──少し抽象度の高い話をしたが、尽きることがなかった。あまりに熱が入り、こちらが解散を促すほどだった。作品論になると夢中で話したくなるみずみずしさが彼女たちにはあった。

作品を作り続ける人生は安定とは無縁で、考えようによっては苦しいものでもある。だがどうだろう、彼女たちは皆堂々として、同時に繊細で、しかし普通の女性でもある。アーティストである、ということは彼女たちの人生に大事な何かを残している。お客様はその生き方の何かを作品から感じているのだろう。

世界で最初の職業はアーティストで、最後の職業もアーティストなのかもしれない。そこには人間が人間として生きるための何かが象徴されている。

https://www.syukado.jp/exhibition/kogei-art-fair-kanazawa-2025/

https://kogei-artfair.jp/artistsgal/shukadoscena

SHUKADO+SCENA @KOGEI Art Fair Kanazawa 2025
KOGEI Art Fair Kanazawa 2025 会期 2025年11月28日(金)〜30日(日)

会場 ハイアットセントリック金沢 2F, 4F, 5F(受付2F)
2025年11月28日(金) VIPプレビュー(招待者限定) 13:00~19:00(最終入場18:30)
2025年11月29日(土) 一般公開 11:00~19:00(最終入場18:30)
2025年11月30日(日) 一般公開 11:00~18:00(最終入場17:30)

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