銀座の画廊<秋華洞>社長ブログ

美術を通じて日本を元気にしたい! 銀座の美術商・田中千秋から発信—-美術・芸術全般から世の中のあれこれまで。「秋華洞・丁稚ログ」改題。

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めっぽう面白いナベツネ

   

日経「私の履歴書」ナベツネこと渡邉恒雄氏の自伝が1日から始まった。滅法面白い。


このブログには滅多に仕事以外のことは書かないようにしているのですが、あんまり文章が冴えているので書いておきます。以下ですます調を排します。


ナベツネといえば「たかが野球選手」など、傲岸不遜な発言で知られ、読売グループをワンマンに仕切る、いしいひさいちの全ての漫画に「ワンマンマン」としても登場する強烈なキャラクターで、近頃は右よりと思われる読売の論調にもかかわらず、首相の靖国参拝というか「靖国」的なるものに対する反発あるいは恨みのようなものも表明している長嶋茂雄と同じくらい有名な人であるけれども、今回の半世紀の文体は、さすが読売を一人で仕切ってきた御大と思われる筆致であった。


出だしからして、父が死ぬ場面を臨場感たっぷりに書いて読ませる。生死を間近にみ、戦争が自分にもたらす「死」の予感におびやかされ、軍国主義者たちの暴力に反発しながら自分の行き方死に方に思いを巡らす少年はおそらく上官の暴力に反発する二等兵として登場し、保守を代表しながら「靖国」的なモノには怒りを表明する大新聞の社主となっていくのだと思うけれども、ともかくも読ませるので、これからが楽しみ。


日経ついでに、今興味深く連載を読んでいるのが「市場とオークション」という日経朝刊(だったと思う)コラム。競り上がり式、競り下がり式、入札二番札式、一番札式の「オークション」はいずれも「理論上」は、ある商品に対して同じ価格に落ち着くという。が一方で、被験者を集めて実験してみると、入札二番札式はばらつきが大きく、競り上がりし式は理論値よりも高くなる傾向があるという。


実はこれらの実験の結果は、日常様々な形式のオークションに触れている美術商としてはすでに経験的に知っているとも言えることで、仰々しく設定された室内の「実験」で数学上の理論を検証していることは、いささか鼻白む思いもないではなかったけれど、「市場」のメカニズムを学問的に検証している人がいるということは発見であった。ただ「市場」の研究という以上、さまざまな実際の「市場」へのフィールドワークなしには、学者の暇つぶしとしか見られない危うさも今の時点では感じられた。また、たとえば美術商や骨董屋の取引場面では、市場運営にかかわる時間、人、経費などのコストや、市場がもたらす「文化」的な側面、あるいは市場と「談合」、市場と「テコ」(ダミーのビッドを入れて価格をつり上げる行為)の関係など、理論上の市場原理が空転する要素はどのように発生するのかを検証しても面白いと思った。


 

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