「凶暴そうな●●●のような方?!」【美術品買取日記】

先日塙賢三先生の作品を買取りさせていただきました。
塙賢三先生の絵はピエロのモチーフが多く、キャンバスの中に無限に優しさが広がっているような画風で私も好きな画家です。

塙賢三「道化」
塙賢三「道化」

今回お作品を売ってくださったお客様は塙先生と親しくなさっていた方とのこと。
私は画家先生を直接知るお客様と出会ったら先生がどのような方であったか必ず聞くようにしています。
書物やインターネットに書かれている情報よりもはるかに興味深いエピソードを知ることができるからです。

今回も例によって私は塙先生はどんな方だったかお客様に伺ってみました。
勝手ながら、塙先生に対して持っていたイメージはこんな感じです。
線が細く、病弱で常に咳をしながら一生懸命に絵を描いている。
繊細で優しくて、女性であれば母性本能を刺激されてしまうような———-。
しかし、お客様から返ってきた返答はこういうものでした。

「狂暴そうなゴリラのような方でした」

「ものすごい強面だったんです。アメリカに行っていたときに
現地のチンピラに銃を突きつけられて脅されたことがあったらしいのですが、睨みつけたら逃げて行ったらしいです」

睨まれただけで銃を持っている人間が逃げ出すってどんな強面なんでしょうか?
それ、もう画家でなくて本職のギャングではないでしょうか?
しかもギャングの中でも伝説を持っているような完全な武闘派でないと難しいのでは。
それ以前に銃を突きつけられる状況ってなんでしょう・・・。

私は自分の中で持っていた塙先生のイメージと実際の塙先生の情報との差が激しすぎて、
心の消化不良を起こしかけていましたが、次のお客様の話で持ち直しました。

「でも、すごい強面の方ではあったのですが、すごく繊細で優しい方でした」

やっぱりそうだ!
こんな感じで買い取りの現場では作家先生の生きた情報に触れることができることが多いのです。
作品を見るだけでその作品の本質を完全に理解することは難しいような気がします。
作家先生の人柄や人生に触れることで初めてその作品に寄り添い、理解できるような気がするのです。
作品ひとつひとつに寄り添いながらこれからも買取りの仕事に向き合っていきたいと思います。

塙賢三